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ちょうど資料室の向かいにはお手洗いがあり、そこから声が聞こえてきていた。
彼女はトイレに行きたいのだろうか、トイレの前で足を止めて、後頭部をポリポリと掻いていた。
――眉根を寄せて
彼女は俺に見られているとは気付かず、ため息を短くはいた。
さすがに鉄の女でも、誰にも見られていないとなれば、弱い姿になるだろう。
そう思って、彼女の様子を見ていると、お手洗いの中から女性社員が二人出てきた。
以前の二人のうちの一人と、もう一人はまた違う人だった。
――ヤバい、泣くかな
と思い、彼女を救いに行こうとした瞬間、まさかの光景を目にした。
なんと彼女は、にこやかに二人に挨拶したのだ。
「お疲れ様です」
「お、お疲れ様」
二人の顔は見事なまでにひきつっていた。
そりゃあそうだろう。
何でそんなに麗しい笑顔を浮かべられるのか、不思議で仕方がない。
扉の前で首を傾げていると彼女が資料室に戻って来た。
「菊池さん?」
彼女に声をかけられ、ハッとする。
「すいません。別の案件でトラブルがあったもので。待たせてしまいましたか?」
真摯な瞳で見つめられ、ゆっくりと頭を振る。
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