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父と母が同郷であることは母から聞いていた。つまり、東京に出てきていた父は郷里に帰っていたことになる。私は仕事の休みを利用して宮崎県に行った。宮崎空港から、さらに電車に乗って延岡市に着いた。小さな地方の町だった。そこが母と父が育ち、そして、二人が出逢った町でもあった。私は毎年、母が年賀状の往来をしていた母の従妹の伊東万理子さんに連絡をとった。年賀状の往来だけで会うのは初めてだった。延岡駅前の喫茶店で待ち合わせた。万理子さんは少し遅れてやってきた。
「ごめんね。お待たせして…」
そう言って向かいの席についた。
「母が生前はお世話になりました。」
「こちらこそ、連絡をもらえば葬儀に行かせて頂いたのに…」
「いいんです。家族だけでやってくれたらというのが母の思いでしたから」
「それにしても、よう来たね。疲れたでしょう?」
そう言うと、万理子さんはタバコを吸い、
「それで、私に用って、聞きたい事って何ね?」
「はい、母と父の事で、伯母さんが知ってらっしゃることありましたらと思って…」
「あんたのお母さんとお父さんは中学、高校と同窓生だったんよ。それが縁で、東京に出てから結婚して、あんたが産まれたんよ」
「お父さんはなぜ、母と別れたんでしょうか?」
「聞かれると思った。中学の頃から、あんたのお父さんはハンサムだったから、あんたのお母さんのカオルさんと、お母さんの親友の新納千鶴子さんで、お父さんを取り合いっこしてね、新納千鶴子さんのお父さんは地元の信用金庫の頭取だったから、卒業後も千鶴子さんは地元に残らなければならなくて、あんたのお父さんと一緒に東京に出て行ったお母さんがお父さんと結ばれたって訳なんよ」
「お父さんが母と私を捨てて一緒になった相手というのは誰なんですか?」
「それが、その新納千鶴子さんなんよ」
私は延岡市に来た事を後悔しました。やはり、私の父は女を弄ぶような、いい加減な男でした。その事を改めて確認するために延岡市まで来たような結果になってしまいました。
それから、数年が経った頃、若い娘さんが突然、私の家を訪ねて来ました。
娘さんは行儀良く、深々と頭を下げると、
「私は新納早苗と言います。祖父が亡くなりまして、亡くなる前にその祖父からことづかって参りました。」
その娘さんが父の孫にあたるのだとわかりました。
「早苗さんって言ったわね」
「はい」
「私も早苗と言うのよ」
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