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児童劇団に入って半年くらい経ったある日、母体である劇団の定期公演から声が掛かった。 恐らく、これから売り出していく為の度胸試しと場馴れさせることが大きな目的だったのだろう。 私は脇役夫婦の娘、お兄ちゃん役は慧だった。 慧に手を引かれて飛び出した舞台の広さと、何百という観客の視線に飲まれた私は足が竦んで動けない。 『……待って、お父さん!』 慧に耳打ちされて絞り出した声は想像以上に掠れて、子どもながらに血の気が引いていくのを感じた。 その後、舞台袖へ戻った途端号泣した私に、演出の先生は言ったのだ。 『泣くくらいなら死ぬ程練習しなさい。それが出来ないなら今すぐお芝居なんて辞めなさい。』 .
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