347人が本棚に入れています
本棚に追加
「斎藤に誘われてここの芝居見に来た時に、良い話書く人が居るんだなって思って。」
「……だから『空想旅団』の話を断って、うちのオーディション受けたの?」
そう尋ねると、高梨君は驚いた表情で私を見返した。
「……もしかして、斎藤?」
「うん、オーディションの日にチラッと聞いただけだけど。」
う~んと唸りながら天を仰ぐ彼が、腕組みして黙り込む。
「……触れちゃいけない話だった?」
「そうじゃないんだけど……。今の良い話が台無しになる。」
難しい顔のまま、片目だけを開いてこちらを見た高梨君は、溜め息を吐いた。
「…………ほら、あんな大きな劇団に入ったら、良い役回って来ないだろ?やっぱり出番は多い方がやりがいあるし。」
「あはは。言ってることとやってることが全然違うじゃない。先生しっかりしてよ。」
格好つけていた高梨君を思い出して笑い転げていると、つられた彼も満面の笑みを浮かべた。
「フウちゃんが、そんなに笑ってくれるなら、不甲斐ない先生役も悪くない。」
.
最初のコメントを投稿しよう!