相合傘

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       【三】  そう申しますのも、  サトリ様が人の娘に恋焦がれる気持も、解らなくも無いと言うのが、正直な所でして、  昔のお話になりますが、  野窓山の麓に広がる、人間の町の、小さな公園で生を受けた私は、生まれ付き、親御の顔も愛情も知らず、  通り縋りの人に餌を乞うて、喰うや喰わずの生活を送っておりました。  飼猫が、  憎たらしく、  羨ましくも、  恨めしいと思う傍らで、同時に野良として生を受けた私自身が歯痒く、  亦、呪ってしまいたくもなりましたが、そんな時、公園で一人の男性と出逢ったのです。  名乗る事は無かったので、御名前は存じませんが、私に餌を与えて下さる、心の優しいお方だった事だけは、今でも忘れません。  『タマコ』と言う名も、  名前が付く事等、有り得ない野良猫の私に、その方は与えて下さり、毎日逢う度、お呼び立て下さいました。
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