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【一】
皆々さま、
本日は遠路遥々、“伏魔ご殿”にようこそお越し下さいました。
“伏魔ご殿”は、
人里離れた、山奥に建造された迷い家建の旅館で御座いますが、
夏は生い茂る木々の葉が避暑を齎し、雨風の簾を作り、
山野では旬の山岳植物が、
河川では脂の乗った川魚が穫れ、
夜は、満天の星空を鑑賞出来る等、地形の恩恵に恵まれております。
私“たまこの前”が、当旅館の女将として勤めさせて頂いておりますが、
当旅館には、
実に様々なお客様がご来館なさいます。
子供の数が減り、商売が上がったりだと嘆かれるうぶめ様や、
温暖化で、人が凍らないと悲しむ雪女郎様など、
お気付きの事と存じますが、私、たまこの前を含む、伏魔ご殿の従業員と、ご来館なさるお客様の殆どは、
住処を失った物怪で御座います。
私も、以前に、人間様に飼われていた猫股で、嘗ては、
『タマコ』
と、言う愛らしい名を貰いました。
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