英雄の娘

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(え? 今、クロス先生の家って言った? ま、まさか、手当てしてもらってるうちにいい雰囲気になったりして……ああ、ダメですよ、クロス先生! 僕と先生は教師と生徒で……あ、でもクロス先生みたいな人なら僕も……) 「うん。ただ手当てするだけだからそんな事にはならないよ」 「何で分かったんですか!? まさか、読心術!?」 「ん? 鼻の下が伸びてたからそうかな、って思っただけだよ?」 (な、なあんだ。なら、俺の恥ずかしい妄想はバレてないのか。良かった良かった) 「あ、でも、ああいうシチュエーションはさすがに恥ずかしいかな」 「やっぱり読心術だ!? というか、それ以上でしょ、それ!?」  徹平の質問に答えず、ユノアは口元に手を当て小さく笑った。 「遊びはこれぐらいにして行こっか。人も集まってきたし」  ユノアの指摘に通りを見ると確かに野次馬の量が増えていた。  徹平はユノアに小さく了承の旨を伝えると、後を黙って着いていく。  道すがら色々質問をぶつけてみるが、あまり盛り上がったとは言えなかった。というのも、徹平が無駄に緊張していたからでもあるのだが。  しかし、それも仕方ないだろう。美人で人柄も良く、生徒たちの憧れの的のユノアと共にいるのだから。漫画や小説の中の登場人物のような人間が一緒なのだ。緊張しない方が珍しいだろう。  話題を探そうと辺りを見渡すと、周囲は簡素な住宅街になっていた。家のリビングには明かりが灯り、和気あいあいとした団らんの声が聞こえてくる。 「ここが私の家だよ」  そう言われ、徹平は目の前の家を見上げた。  --喫茶店あゆ  看板にはそう書かれていた。少し古びた西洋のアンティークっぽさを感じさせる店の外装は、昔ながらといった感じでどこか落ち着く。二階建てのこじんまりとした感じで、ユノアの言葉を考えるなら自宅兼店舗なのだろう。 「さ、入って」  ユノアに促され、徹平は喫茶店あゆの中に足を踏み入れた。  可愛らしい呼び鈴の音が来客を伝える。その音に気づいたのか、カウンター越しに一人の女性が徹平へと視線を向けた。  肩よりも少し下ぐらいの長さの、ユウカと同じように真っ赤な髪をハーフアップで纏めている。ユウカに似た眼差しはユウカよりも優しく、大人っぽさを感じさせる。
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