プロローグ

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 僕たちが生きる日常というものは必ず何かの犠牲の上に成り立っている。お金だったり、家畜だったり、時間だったり。それらを同列に扱うのはどうなんだ、という意見もあると思うが、消費するまたは対価にするという意味では同じなので問題ないだろう。    僕たちは時間を使って何かを成し、家畜を殺して日々の糧を産み出し、お金を使って日々の糧を手に入れている。それは当たり前だ。当然だ。人間であるならば普通の事だ。しかし、そこで止まってはダメなのだと僕は思う。  僕たちの当たり前の裏ではたくさんの人たちが汗水を流し、血反吐を吐いているのだ。公共交通事業しかり、建築物しかり、インターネットしかり。たくさんの人が寿命を削り、精神を磨り減らして僕たちの生活を豊かにしている。僕たちはその事実を知るべきだと思う。  この僕の考えについて、仕事なんだから当たり前だろという答えがあるかもしれない。当然だ。僕もそう思う。だが、これはそういう話では無いのだ。別に知って行動しろとは言わない。ただ、僕は知って欲しいのだ。日常の当たり前を実現するために何が起きているのかを。何が起きたのかを。  過去の偉人たちが命をかけてまで何を成そうとしたのか。それが、僕たちの日常にどう結びついているのかを。  結局、何が言いたいのかというと、僕は日常が当たり前に提供されるものと思って欲しくないのだ。僕たちが生きる日常は多くの人たちによって実現されている奇跡なのだという事を知って欲しいのだ。  例えば、そう、僕が……いや、僕たちが生きるこの日常はたった一人の青年の命と引き換えに実現している奇跡なのだ。たった独りで世界を救った英雄の日常と引き換えに得たものなのだ。  彼――神楽坂悠季というたった一人の、数奇な運命をたどった英雄の存在と引き換えに、僕たちがいる世界は存在しているのだ。
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