英雄の娘

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「シャラーップ! ビークワイエット! あーもう、分かったよ。神楽坂は誘いません。めんどくせーな。帰るぞ、てっぺー」 「あ、ちょ、ちょっと待ってよ」  人垣をかき分けて先に教室から出ていく深雪を徹平は急いで追いかけていく。  そのうち諦めるだろうとは思っていたがこんなにも早く深雪が折れることになるとは思わなかった。徹平と深雪は出会って一年ほどの付き合いだが互いに人となりはある程度分かっている。だからこそ、徹平は深雪が早く諦めた理由が分からなかった。 「予定が潰れちまったなー。どっか本屋でも行くか」 「えっ? 俺、来週のテスト勉強したいんだけど?」 「えっ? だから遊ぶんじゃないの?」  徹平と深雪は互いに顔を見合わせて何を言ってるんだと視線で投げかける。  気まずい沈黙。一拍置いてどちらからともなく笑い始めた。  ははは。そうかそうか。お前も冗談がきついな。いやいや、お前こそ。いやいやいや。いやいやいやーー。 「帰る」 「待て。待ってくれ! 頼む。頼むから来てくれ。俺一人だと変なのに絡まれるんだよ! おちおち本屋巡りも出来やしねぇ! コーヒー! コーヒー奢るから!!」 「俺は帰る!」 「ランチだ! 今度の週末にランチも奢ろう。これでどうだ?」 「今度赤点取ると家族会議があるんだよ!」 「……神楽坂の出現ポイント教えるから。後、写真部からかっぱら……もらった秘蔵写真上げるから」  腰にしがみついていやいやと赤子のように首を振る深雪を徹平は冷めた目で見下ろした。  この友人が無類の本屋巡り好きだというのはよく分かっている。過去に何度も突き合わされた。一つの本屋を巡るのにたっぷりと三時間かけたことは苦い思い出として残っている。また、一人で巡っていると妙な人たちに声をかけられるというのはよく聞く話である。つい最近では黒ずくめのガタイのいいおじさんたちに声をかけられたらしい。  しかし、今、そんな事は徹平にとって重要じゃない。正直、どうでもいいと言ってもいいぐらいである。重要なのは深雪がユウカの学校以外の行動を知っているということなのだ。  ユウカの学校以外での情報は一切謎に包まれている。放課後、すぐに下校をした後どこにいるのか。趣味などがあるのか。かつて、そんなユウカのプライベートを暴こうとした猛者がいたが……結果は悲惨なものだった。
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