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辿り着いた書店は天国のようだった。初夏の陽射しを妨げ、快適な空間を与えてくれる。陽射しから回避するには最高の避難場所だろう。
ただ、書店にはいるなり、瞳を輝かせ小学生のように駆け回る姿は徹平には理解できなかった。
しかも、それが二時間経っても全く変わらないというのだから本当に理解しがたかった。もう間もなく時間も午後七時を回ろうという時間になっていた。
「おい。そろそろ出現ポイントを--」
「うへへ。売り出し中の作者はこいつらか。あー、ダメじゃないか、五十音で並べてんのにずれっちゃってるよ。今直してやるからなー」
徹平の視線の先には薄ら笑いを浮かべて本を並べかえる深雪の姿があった。
相変わらず気持ち悪い。何度見てもこの姿だけは、徹平の理解の範疇を越えていた。出来るなら、このままそっとしておいて立ち去りたいとさえ思う。
しかし、そうもいかないのが今日の状況だ。今日はユウカの出現ポイントを教えてもらうという条件で本屋巡りに付き合っているのだ。教えてもらわなければ帰るに帰れない。
徹平は意を決して深雪の肩を掴んだ。
「深雪、いい加減約束を--」
「シャラーップ! ビークワイエット!! 俺は忙しいんだよ、バカヤロウ!」
深雪は徹平の手をはねのけると、鬼のような形相でそう言い放った。
瞬間、徹平の堪忍袋の緒が切れた。
もういい。こいつがどうなろうと知ったことか。変人に絡まれるなら絡まれてしまえ。
徹平は肩を怒らせて顔を憤慨させて書店から出た。
いつもの事だが、自分から誘っておいてあの態度は無いだろうと思う。書店に入るなり、気が狂ったようになるのは治すべきだろうに。本人にその自覚が無いことが難点だ。
さすがに関係を考え直した方がいいだろうかと徹平は本気で悩んだ。
溜め息を吐き、辺りを見回す。
徹平の動きが固まった。
怪しげな宗教の勧誘。仕事帰りのサラリーマンへとキャッチセールスを行う姿。思春期の男の子には少しばかり刺激の強い服装をした女性たちのキャッチセールス。
(ここは学生が来ちゃいけない場所だ……!)
気づくと同時に回れ右。そして、とある事に気づいてしまった。
視線の先にあるのは数人の男に囲まれる女性の姿。服装から徹平と同じ学校の生徒だという事が分かる。肩甲骨辺りまである燃えるような赤いサイドテールの女子生徒は、神楽坂ユウカだった。
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