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話している内容までは徹平の方にまでは聞こえてこないが、どうも仲良しこよしのお友だち同士には見えない。
建物の壁に寄りかかり、男たちを全く相手にしていないように見えていた。だが、両者の間でなにやら取引のようなものが成立したらしく、ユウカ達が動いた。
柄の悪い男たちの後をユウカが着いて路地裏へと入っていく。
瞬間、徹平の頭の中に徹平にとって最悪の事態が思い浮かんだ。
いや、そんなまさか。あの神楽坂ユウカだぞ。間違っても身売りまがいの事なんか。いや、でも、実際に。いやいや、もしかしたらあも男たちに騙されて--。
道の上に立ち尽くす徹平の頭の中を様々な想像が埋めつくす。否定しようにも否定する材料が思い浮かばない。徹平の頭はどんどん混乱していった。
「ひぃぃぃっ!!」
情けない悲鳴が徹平の耳をつんざいた。
ユウカ達が消えた路地裏から先程の男の一人が飛び出してきた。周囲の人々も何事かと集まり始める。
徹平の頭の中に一つの想像が浮かんだ。もしかしたら、第三者が現れてユウカを襲っているのではないのかという事が。
「神楽坂さんっ!」
二人目の男が飛び出してくるよりも早く徹平は路地裏に辿り着いた。そして、路地裏の中の光景を目にして絶句した。
男が泣きながら命乞いしていた。ユウカが男の胸ぐらを掴み上げ、拳を振り上げている。
四つの目が徹平の姿を捉えた。二つは徹平に助けを求め、二つは邪魔をしたら許さないと脅していた。
徹平は天を仰いだ。
ああ、面倒な事に首を突っ込んでしまった。逃げるのが一番得策だろう。だがしかし、自分はここで逃げ出せるような性格をしていない。見てしまった以上、こんな弱いもの苛めを見過ごす気にはなれない。
徹平は自分の性格を呪いながら一歩踏み出した。
「あー、も、もう、止めた方がいいじゃないかな、神楽坂さん」
情けない事に声が震えていた。
それでも男にとってはすがり付きたくなるような曉光だったらしくしきりに頭を縦に振っている。だが、ユウカにとっては取るに足らないことらしく、拳を降り下ろした。
「ちょ、ま--」
止めようと手を伸ばした瞬間、徹平は壁に叩きつけられた。
喉を締め付けられ、息苦しさを感じた。突然の展開に徹平の頭が追い付かない。混乱する頭でいったいどういう状況なのか理解に努めた。
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