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深夜二時、いつもより少し早く店を閉めた。何本か電話があったが、適当な理由で断りを入れた
普段であれば、断る事などない。お客の我が儘に付き合うのも仕事なのだ
はやる気持ちを抑えて、片付けをする。もう香織は近くにいるはずだった
カウンターにクロスを広げて、うつ伏せに洗い終えたグラスをふせていく
流しのゴミをまとめて、ゴミ袋の端を縛る。後は、明日の酒屋の発注を留守番電話に入れれば仕事は終わりだ
カランと店の扉が開いた、勘弁してくれよ。そう思いながら扉を振り返った
そこには香織がいた
ずっと会いたかった彼女がそこに立っている
「ごめんね…待てなかった」
扉の内側に足を踏み入れたもののそこから動かない
「おいでよ」
その呼びかけで、ようやくこちらへ歩いて来る
「あのね…隆ちゃんが遅く帰って疑われるのは嫌なの」
待っている間にずっと考えていたのだろう。そんな話を切り出した
私は、カウンターから出て扉の鍵を閉めた
香織は思案顔でカウンターに座っている。後ろから香織を抱きしめる、ずっと触れたかった香織の感触
「会いたかった」
「ごめんね、電話するつもりじゃなかった。ダメだって…絶対ダメだって」
そう言いながら、カウンターに顔を伏せる
もう止められない
「愛してる…香織」
決して口にする事がなかった台詞、ビクッと香織の身体が震えた
しばらくの沈黙の後、香織が口を開いた
「私も…愛してる」
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