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土曜日の昼中だった。前日の酒も抜けきれぬまま、青白い顔で式場へと向かった。髭すら剃っていないのでバッグへシェーバーを忍ばせた
「ねえ、本当に一緒に行かないの?」
さすがに茜も怒っている。式場で私の支度など無いも同然だった
「ゴメン、後から追いかける。先に行って」
荒々しくドアを閉める音が聞こえた。後数時間眠れる筈だ
シャワーを浴びて車に飛び乗ったのだ。それにしても気が重い、香織も香織との関係を知っている連中も出席するのだ
ハンドルを握りながら、逃げ出したい気分になる。式場の駐車場へ車を滑り込ませた
「もう、やっと来た」
茜の姉が私を手招きした
「もうメイク終わるよ、見に行ってあげて」
促されるままに、控え室へと歩いた。真っ白なウエディングドレスに包まれた茜は美しかった。僅かに腹部に膨らみが見える、それを差し引いても美しい以外の形容は見当たらない
ボーッとして見つめていた。その様子を不思議そうに茜が見つめる
「何かいう事無いの?」
「ああ、綺麗だ」
あまりに素直に答えた私が可笑しかったのか、満面の笑みで返事をした
「バカ、皆いるのに」
そう言いながら嬉しそうだ
「ねえ、早く着替えてきたら?」
そう言われ、控え室へと向かう。壁に白いタキシードが吊るしてあった。鏡にむかって髭を剃り、タキシードに袖を通した
何度見ても似合わない、この世の中にこれが似合う男がいるのだろうか?
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