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そうして、セレモニーは終わり日常が戻ってきた
あの日以来、香織から連絡は無い。毎日のように顔を出していた店にも姿はない
ほっとする気持ちと、大切な物が欠けてしまった寂しさで複雑な思いだった
それでも、私達にとってこれが一番良い選択肢なのだろう
病院へ行く度に、茜はお腹の子供の状況を嬉しそうに報告する
「どっちなのか教えてくれないのよ」
男なのか、女なのか。どうやら初産の場合には教えないと決めているらしかった
「どっちでも良いよ、元気で出てくれば」
並んでソファーに腰掛け、茜の頭を撫でながらそう話した
「女の子がいいな、可愛い服きせて甘やかして育てるの」
「生まれる前から、甘やかす事考えてるの?」
「そうよ、当たり前じゃないの。女の子はね、甘やかされる為にいるんだよ」
どこ迄本気なのだかわからない、甘やかされて育ってきているのは間違いない
茜も香織も、お嬢なのだ
夢を見た、香織の夢だった。正確には私達の夢だ
何処かの一室で全裸の香織と絡み合っていた、向かい合う形で膝の上に香織がいる。艶めかしく舌が絡みあい、吐息が耳元に絡みつく
「愛してるよ、隆ちゃん」
歓喜の声に交じって、そう囁く
「愛してる」
私もそう応えた
その瞬間、「マズい」そう思ってしまった処で目が覚めた。横では茜の寝息が聞こえていた
そっとベッドから抜け出した、嫌な汗が身体中を包んでいる
これ迄、お互いに決して口にしなかった言葉。
多分、これは私の本心なのだろう
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