愛情 #2

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店に出る前に、茜の実家に立ち寄る。起きてすぐにマンションを出る、手には洗濯物 不思議な事に、日々子供に対して愛情が湧いてきた。得体の知れない物体が、果てしなく可愛らしく見えてくる 愛情など理解も出来なかった自分にとって、それは予想もしない出来事だった 「よく飽きないね~」 ずっと、赤ん坊の顔を眺めている私に茜が耳打ちする。聞き流す振りをして、小さな手に人差し指を掴ませる ギュッと握られる指先、小さな手の先のもっと小さな指。おぼろげに無償の愛とはこういった事かと考えた それでも、店で仕事の合間に思うのは香織の事だ。しばらく顔を見ない日が続いている 茜への背信の気持ちに加えて、赤ん坊の存在も私を苦しめる それでいて、まだ止まらない気持ちが存在している。理屈ではない、身体も心も香織を求めている 茜の事も以前より大事に思える、微妙なバランスなのだろう。それでも今の自分には全てが必要なのだ まだ客も入らない開店早々、電話が鳴った 「香織だけど…顔見たいな。終わりがけに行ってもいいかな」 「ああ、待ってる」 声を聞くだけで堪らなくなる。愛しい子供も、増している茜への愛情も障害にはならなかった
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