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「お~、隆ちゃんいらっしゃいませ」
階下のこの店は、広さは同じでもスタイルがまるで違う。カウンターの内側には大きな鉄板があり、メニューは鉄板で焼くツマミにカクテルの種類も豊富だった
「どう?最近は」
オーダーのビールと共に出てきたのは、そんな言葉だ。水商売で、どう?とくればもちろん売上の事
「ぼちぼちやってますよ、ハコが小さいから相変わらず逃げられますけどね」
「まあ仕方ないよな、でも逃げられるだけ入ってるって事じゃん」
苦笑しながらマスターが答えた
「何言ってんですか、俺からしたら十五年もやってる店のが羨ましいですよ」
「まあ、惰性だよな。大して儲かんないけど、来てくれる客いるしな」
四十少し前だろうか、子供も大きいと聞いていた
「ですね、暇だとへこみますけどね」
「まあ、待ちの商売だからな~」
カウンターの中で、スツールに座りタバコをふかしながら天井を見つめている
「実はさ、ぼちぼち区切りつけようかとか考えるんだよね」
「それって、店閉めるって事ですか?」
「流石にそれは出来ないからさ、誰かにやらせようとかね」
いつ迄も続けられる商売では無い、誰もがわかっている。その後は、当たり障りのない世間話をして店を出た
店の外までマスターが送りに来る
「ああ、そういえばさ~。前に連れて来てくれた女の子、チョクチョク来てくれるよ」
この店に連れて来たのは、茜と香織ぐらいだった。茜の筈は無い、茜と結婚した事ぐらい彼も知っている
「そうですか、うちには最近来て無いですよ。又寄るように言っといて下さいよ」
「ああ、伝えとくよ。でも、隆ちゃんと付き合ってると思ってたんだけどな」
「また~、勘弁してくださいよ。子供も生まれたんですからね」
「まあ、そう言う事にしておくさ。気を付けなよな」
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