第1話

2/2

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
ここは、山田県某市。 俺は、馬渕大知。烏山(からすやま)中3年である。 山田県とその周辺地域に猛威を振るう塾『進学指導、個別指導は御任せ。山金学院』で地元ではすっかりおなじみとなった山金(やまきん)学院生である。 もっとも、この塾が特別いい塾な訳ではなく、単に「友達がいるから」とか「安いし」とか言う親のゴリ推しとも言える強烈な後押し(?)による入塾が多数で、山田県民の親は万年「山金に入りなさい」が、受験時の決め台詞となっている。 今日も塾に行く途中に、塾前にいた親子が「ここがお兄ちゃんの行ってる塾だよ。あー君も大きくなったらあそこにはいろうねー」などという会話を横耳に通塾する始末なのである。正直うんざりなのだ。 烏山教室はおおきく、教室が大小あわせて50近くあるというからおどろきだ。 烏山中の生徒でここに通っているのは60人ほど。その他は周辺の学校から集まってきている。 ここの教務スタッフ、いわゆるせんせーのひとり、浜田が今日も安らかな顔で「こんばんは」といってきた。 いい加減、その『安らかな顔』がこっちからすると「苦しんでるようにしか見えない顔」ということを早く本人に教えてあげてほしい。 塾が終わり(途中で抜けて)、帰路についた俺はいつものように東烏山駅周辺をサイクリングしていた。 最近の楽しみは、斉藤ビルから隣町にある際燈ビルズ(同じ名前で見つけたときはびっくりした)まで自転車をかっとばすことだ。 地元の人でも知る人が少ない暗くて人通りの無い一本道を駆け抜けるのである。最速タイムは5分17秒。今日はっと。 未来の競輪選手(?)はスタートラインに立った。 3、2、1、GO! ああ、この風を切る爽快感!いやされる! 緩やかなカーブにさしかかった時、自転車の操縦権は馬渕大知のものではなくなっていた。 この道には側溝など無いし、特にハンドルが奪われることなど無いはずなのだが。 俺が力を入れてもびくともせず、こぐのをやめても坂ではないのにスピードはむしろ上がっていく一方である。ブレーキも利かず目の前の雑木林にはいってしまう。 『たすけて』 声も虚しく俺の体は雑木林へときえていったのである。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加