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「いい、衣装に果汁が飛んだら大変」
「あ、じゃあ、下手裏のテーブルに置いときますので、後でどうぞ!」
「ん、アリガト」
再びダンサーの背中に視線を戻している間に、苺のトレイを持ったスタッフの男は、消えていった。
ラストの一人を送り出し、袖で額の汗を拭う。すると白いシャツに、薄らとファンデが移っていた。
ああ、また、やってしまった。と心の中で悪態をついた。けれども、首筋を流れる汗は止めどなく溢れてくる。
大晦日の夜である今日は、かなり冷え込んでいる。空調はショーが始まってからは熱がこもるため、だいぶ下げているはずだ。
それでも暑い。
それはきっとステージの熱気が、バックヤードの体感温度も引き上げているからだろう。
観客のボルテージが上がっているのだから素晴らしいことなのだけれど。
——息苦しい。
ここの空気は、いつも蒸してて埃っぽくて肌がやけにざらつく。
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