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何度となく繰り返している全ての工程は、身体が覚えていたが、未だに終えると、どっと疲れが出た。
私がする作業は、ただ服を着せて送り出すだけじゃなくて、ワイヤーで宙吊りになる彼らの命を預かっているわけで、大丈夫だろうという甘えも、慣れから出る気の緩みも、在ってはならなかった。
気が抜けない作業を終え、第3幕目で、ほつれたショルダーのレース生地を直す作業へと取り掛かった。
ダンサー同士が接触した際に、衣装の下に身につけている金具が絡んでしまい、無理やり取ろうとしたところレースが犠牲になった。
すぐさま同じ型番の替えの衣装へとチェンジしてダンサーを送り出す。とりあえずは、事なきを得たが、破れた衣装は、先ほどの痛々しい状態のままで私の膝の上にある。
仕事道具が詰まったプラスティックケースの中から裁縫道具を広げ、一番細い針を取り出す。猫の毛程に細い透明の糸を通し、レースの綻びを丁寧に縫う。
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