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いやしかし俺は、あの時本当に稲葉を手に入れたのかどうか・・・・。今となっては自信がなかった。
それが現実だと実感したのは、飲み会での2人を見た時だった。
野上さんは射すような熱い目で稲葉を見ていた。そして稲葉はその視線に決して反応しない。 それは頑ななほどに。
それは、甘く絡む視線を見た時よりも俺を打ちのめした。
相変わらず、俺は観察日記が書けるな・・・・。
2月の半ば、俺は飲み会の帰りに稲葉を強引に連れ出した。
「稲葉、学生の時、第二外国語って何だった?」
「え・・・と・・・・フランス語です」
訝しげに稲葉は答える。
「そうか・・・・じゃあ次、俺はパリを希望する」
「え・・・・・?」
「でも俺はいつかミラノにも行きたいと思ってるから、お前イタリア語も勉強してくれ」
稲葉は、ほんのちょっとの間ぽかんとしていた。
「稲葉、わかってる?これはプロポーズだ」
「・・・・わかってます」
稲葉は小さく答えて、花が開くように笑った。
俺が見たかった笑顔がそこにあった。
***********
<最後の、亮太目線>
バレンタインデーは会社では義理チョコをたくさんもらって帰ってきた。もちろん澪もくれた。
義理チョコだったけど。
夜、翔吾が寝た後でコーヒーを飲んでいると、いきなり早紀がソファの隣に座った。
「亮ちゃんにバレンタインのプレゼントあげるね」
そう言ってテーブルに置かれた封筒の中身は、どう見てもチョコではなさそうだ。
「・・・・・・・?」
「・・・・離婚届。サインしてある」
「え・・・・・?」
早紀はにこっと笑った。
「本当は誕生日のプレゼントにしたかったんだけど、私もなかなか決められなくて」
「早紀・・・・・」
「私たち、最後まで噛み合わなかったね。たぶん・・・2年前からずっと」
「・・・・・・・・」
「わかってる。亮ちゃんがやり直すために色々努力してくれたこと。でも・・・・結婚生活に熱くなる時期が、私たち・・・ずれちゃってた気がする」
「うん・・・・・」
「私の方の条件とか色々書いといたから読んで。亮ちゃんの希望も一応聞く」
「・・・・わかった」
早紀はふっとため息をついた。
「亮ちゃん・・・翔吾と離れるの・・・・寂しい?」
「当たり前だ。でも・・・俺は早紀を裏切ったわけだから・・・・一番キツイ罰を・・・・受けるべきなんだと思う」
早紀はまたにこっと笑った。
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