第4話

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いやしかし俺は、あの時本当に稲葉を手に入れたのかどうか・・・・。今となっては自信がなかった。 それが現実だと実感したのは、飲み会での2人を見た時だった。 野上さんは射すような熱い目で稲葉を見ていた。そして稲葉はその視線に決して反応しない。 それは頑ななほどに。 それは、甘く絡む視線を見た時よりも俺を打ちのめした。 相変わらず、俺は観察日記が書けるな・・・・。 2月の半ば、俺は飲み会の帰りに稲葉を強引に連れ出した。 「稲葉、学生の時、第二外国語って何だった?」 「え・・・と・・・・フランス語です」 訝しげに稲葉は答える。 「そうか・・・・じゃあ次、俺はパリを希望する」 「え・・・・・?」 「でも俺はいつかミラノにも行きたいと思ってるから、お前イタリア語も勉強してくれ」 稲葉は、ほんのちょっとの間ぽかんとしていた。 「稲葉、わかってる?これはプロポーズだ」 「・・・・わかってます」 稲葉は小さく答えて、花が開くように笑った。 俺が見たかった笑顔がそこにあった。 *********** <最後の、亮太目線> バレンタインデーは会社では義理チョコをたくさんもらって帰ってきた。もちろん澪もくれた。 義理チョコだったけど。 夜、翔吾が寝た後でコーヒーを飲んでいると、いきなり早紀がソファの隣に座った。 「亮ちゃんにバレンタインのプレゼントあげるね」 そう言ってテーブルに置かれた封筒の中身は、どう見てもチョコではなさそうだ。 「・・・・・・・?」 「・・・・離婚届。サインしてある」 「え・・・・・?」 早紀はにこっと笑った。 「本当は誕生日のプレゼントにしたかったんだけど、私もなかなか決められなくて」 「早紀・・・・・」 「私たち、最後まで噛み合わなかったね。たぶん・・・2年前からずっと」 「・・・・・・・・」 「わかってる。亮ちゃんがやり直すために色々努力してくれたこと。でも・・・・結婚生活に熱くなる時期が、私たち・・・ずれちゃってた気がする」 「うん・・・・・」 「私の方の条件とか色々書いといたから読んで。亮ちゃんの希望も一応聞く」 「・・・・わかった」 早紀はふっとため息をついた。 「亮ちゃん・・・翔吾と離れるの・・・・寂しい?」 「当たり前だ。でも・・・俺は早紀を裏切ったわけだから・・・・一番キツイ罰を・・・・受けるべきなんだと思う」 早紀はまたにこっと笑った。
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