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「そういや、暫く連絡取ってないや」
枕の下、携帯の硬い感触を感じながら、俺はふと思った。
たしか、俺がインフルになってから、まだ1度も連絡していない。
『‥‥‥翔』
暗い瞼の裏に浮かび上がるそいつの幻想が、俺の名前を呼びかける。
俺の幻想の中のそいつは、なんだか寂しそうに表情を曇らせていた。
どうして俺の中のこいつは、こんな顔をしているのだろうか。
もう2度とさせたくないと誓ったその表情を。
『‥‥‥翔』
俺の名前を口にしながら、そいつは真っ暗闇に段々消えていく。
俺は懸命に追いかけようとするも、結局はそいつは闇の中へとけてしまった。
『‥‥‥翔』
夢とも現とも分からない、暗闇の中で誰とも知れない声がひたすらに俺を呼ぶ。
「‥‥‥翔」
というかよく耳を済ませば、それは現実世界から聞こえてくるようであった。
家には誰も居ないはずなのだが。
俺もそろそろ末期らしい。
死ぬのだろうか俺は。まあ死因がインフルエンザ、と言うのも笑い話ぐらいにはなるかもしれない。
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