第2話 純粋な想い

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オレの家に招いたせいでテンパっているのか、 「あ、あの。加賀見さんの会社の部下の藍井です。突然の事で手土産も持たずに失礼しました」 姉の所まで案内してくれている、古参のメイドにあたふたと挨拶している。 オレの物心つく前から、代々ウチに仕えてくれているメイド頭は、 藍井の挨拶に驚いたものの、 「私どもにまでそのようにご挨拶下さるなんて、恐れ入ります」 ゆったりと笑った。 連れてきた客人で、こんな『普通』の挨拶をしたのは藍井が初めてだ。 みな使用人は目に入らないようで、彼らに挨拶する輩(ヤカラ)などほとんどいない。 あとでこのメイド頭が、 「親御さんの躾の良い方ですね。今どき珍しいくらい礼儀の行き届いたお嬢様です」 藍井をベタ褒めしていた。 メイド頭の情報は瞬く間に屋敷内の使用人に、広まる。 得てして彼女は、加賀見家の使用人から好印象を得る事になるのだが。 彼女には何の関係も無い事だ。 「坊ちゃまも、ああいう方を早くお嫁さんにお迎え下さいまし」 最近とみに耳に痛い、お説教を喰らう羽目に、 なったけど。 姉と対面した藍井は、先ほどの挨拶を繰り返し、 仁王立ちする姉の姿をうっとりと見つめ。 「・・・綺麗なヒト」 なんて呟くもんだから。 「じゃ、アンタ出ていきなさい」 すっかり姉に気に入られてしまったようだ。 「・・・姉さんと2人きりにする訳には」 反論するも、 「アタシはこのコが気に入ったの。だからアンタ、邪魔」 キッパリ言い切られ、あげく、 「あ・・・このコの着替え覗く気ネ!」 オレを指さし、ケケケと笑った。 ウチの姉は、ハッキリ言って品が無い。 初心(ウブ)な藍井が毒されないかと心配するが、 何だかんだで結局、部屋の外に出されてしまった。
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