第5話

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 今日も今日とて、僕の食事は、解凍したご飯とスーパーで買った惣菜たちだ。空腹ということもあってさっそく箸をつけようとした。  しかし。 「いただきます」  アゲハが手を合わせた。  僕は一瞬固まって、でもすぐにアゲハに倣って「頂きます」と合掌する。  教えていないから、きっとこれも「いってらっしゃい」同様、テレビで学んだものだろう。 「いただきますって、アニメで覚えたの?」 「ううん。『ママといっしょ』っていうので言ってた」  なるほど、毎日やっている幼児向けの教育番組か。ちゃんと見たことないけど、なかなか優秀な番組なんだな。長寿番組なのも頷ける。 「他は、どんなのを見てるの?」 「アニメ! 女の子のまほうつかいがたたかうのとか、なかまとたび?するのとか」  高校生以降はアニメから離れてしまったから、僕に最近のアニメの知識はほとんどないけど、ここだけ聞くと、昔と根本的には変わっていないように感じる。 「どんなところが好きなの?」  なんか、親が子供にする質問だな、なんて思ったけど、アゲハは眉根を寄せて真剣な顔つきになった。両手で持ったハチミツ水にも口を付けず、考えている。 「まほうつかいのは、みんなでたたかってるところがすき。なかまとたびをしてるのは、男の人が女の人をがんばってまもるところ」  日中、僕がいない間に様々な番組を見て、いろいろ学んでいるようだ。  たった一週間で語彙力が上がって、喋り方にたどたどしさがなくなったのもこれが理由か。 「男の人が女の人をたすけたあと、女の人が、ありがとうって言って、男の人にだきついたのが、ドキドキした」  ほんのり頬を染めつつ、付け足すアゲハ。  どうやら、アニメを通して恋愛感情も学んでいるようだ――。
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