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「アゲハは蝶なんだから、蝶として生きたいでしょ?」
今のアゲハが蝶と同じ寿命かはわからない。でも。だからこそ、だ。
「………」
アゲハの瞳が揺れたのがわかった。僕の焦りが伝わったのかもしれない。
「アゲハが人間になったとき、人間になりたいって強く思ったんだよね?だから、今度は同じ状況で、蝶になりたいって強く思ったら、元に戻れるんじゃないかなって思って…」
「………」
「今日の天気、あのときとそっくりでしょ?試すなら今日しかないと思ってるんだ…。いい?」
疑問形で言ったけど、僕の中に、実行しないという選択肢はない。今日を逃すと、もうチャンスはやってこないかもしれないから。
「あの時と同じ状況にしたいから、テレビと電気消すね?」
アゲハが何も言わないことをいいことに、僕はどんどん話を進める。
「かいと…?」
部屋の入り口付近のボタンを押す。
天井の蛍光灯は消えたが、部屋はテレビの放つ光でほんのり照らされている。
ローテーブルを回り込んで、アゲハの手からリモコンを抜き取ると、電源ボタンを押す。
音とともに、光も消えた。
エアコンと冷蔵庫は仕方ないからこのままで。
これで、あの時―― 一週間前 ――とほぼ同じ状況が出来上がった。
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