第5話

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「アゲハは蝶なんだから、蝶として生きたいでしょ?」  今のアゲハが蝶と同じ寿命かはわからない。でも。だからこそ、だ。 「………」  アゲハの瞳が揺れたのがわかった。僕の焦りが伝わったのかもしれない。 「アゲハが人間になったとき、人間になりたいって強く思ったんだよね?だから、今度は同じ状況で、蝶になりたいって強く思ったら、元に戻れるんじゃないかなって思って…」 「………」 「今日の天気、あのときとそっくりでしょ?試すなら今日しかないと思ってるんだ…。いい?」  疑問形で言ったけど、僕の中に、実行しないという選択肢はない。今日を逃すと、もうチャンスはやってこないかもしれないから。 「あの時と同じ状況にしたいから、テレビと電気消すね?」  アゲハが何も言わないことをいいことに、僕はどんどん話を進める。 「かいと…?」  部屋の入り口付近のボタンを押す。  天井の蛍光灯は消えたが、部屋はテレビの放つ光でほんのり照らされている。  ローテーブルを回り込んで、アゲハの手からリモコンを抜き取ると、電源ボタンを押す。  音とともに、光も消えた。  エアコンと冷蔵庫は仕方ないからこのままで。  これで、あの時―― 一週間前 ――とほぼ同じ状況が出来上がった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加