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どれだけ経ったのだろう。きっとさほど時間は流れていないんだろうけど、感覚としてはすごく長い。
お互い、何も言わずにただ立って、雨音と雷を聞いていた。僕は雷のたびに、まだアゲハが蝶に戻っていないことを確認していた。
「目を閉じて、蝶のときのこと思い出してみ――」
「だめだよ」
強くはないけど、でもはっきりとした声に僕の言葉は遮られた。
「アゲハ?」
「だめ、だよ…」
「え?」
「元に、もどれないよ…」
「そんなの、やってみなくちゃわかんないよ?」
実際、アゲハは人間になったんだから、蝶に戻ることもできるはずだ。
「むり、だよ!」
「何で!? 何度でもやってみようよ!」
言った勢いで、両手をアゲハの肩に伸ばしていた。手探りで肩を掴む。
「アゲハは蝶なんだよ? 人間のままでいいの!?」
細い肩を掴む両手に力が入る。
「このままじゃ、駄目だよ!」
「なんでだめなの!?」
叫ぶような強い声。
僕はたじろいだ。
「なんでって……」
「だって!」
Tシャツが引っ張られる。アゲハが掴んだんだ。
「だって私、かいとといっしょにいたいのに!」
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