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「ユーヤ、そろそろ戻るよ!」
空港敷地横の空き地で、生い茂る夏草に埋もれていたユーヤは、すぐさま呼ばれた自分の名前に反応した。
駆け戻ってきて、嬉しそうに長い尾を振ってウエイトの姿勢に思わず漏れる苦笑い。
「お前はちゃんと言うこときいてくれるのになぁ。」
その首輪にリードを掛けながら、今は遠い海の向こうで暮らす、ユーヤにそっくりな容姿のハルを思い出した。
ハルはいつだって自分のコマンドなど聞き入れやしなかった。
間違いなく耳には届いている、理解しているはずなのに、自分が従うべき人はただひとりと頑なに貫き通した。
ハルの飼い主。
マイペースで自己中心的で、高速回転する頭脳でいつだって人より先を見通して先回り、余裕の笑みを崩さない…。
あの、人を惹きつける孤高の存在。
…ただ飼い主に倣ってナメられていただけのような気もするが。
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