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10分後。
ジストは訓練用に模擬ペイント弾や模擬剣を装備したグランセルのコックピットにいた。
一般的なパイロットシートの左右に操縦桿(グリップ)があるタイプのコックピットはジストにとっては慣れたものだった。
「…。」
全周型モニターに映るのは500mの距離を置いて立っている対戦相手のグランセル。モニターの端には自動的に騎体AI(人工知能)が収集し始めた相手のグランセルのデータが並べられていた。
武装はどちらも帝国軍が正式採用しているバトルライフル。
違うのは、ジストがナイフを装備しているのに対して相手の訓練生が巨大な大剣を装備していることだ。
ーー純血派か…。
この一か月、ジストはクラスメートからは避けられていた。
様子見期間だったこともあり、ジストとクラスメートとの接触は必要最低限にとどめられていたし、ジスト自身も積極的にかかわることはしなかった、
しかし、観察はしていた。
今日喧嘩を吹っかけてきた男子生徒は特にだ。
理由は単純。
彼が【純血派】を公言するほどの帝国臣民であるからだった。
【純血派】とはいわゆる純粋バルバレスト人であり、バルバレスト帝国政府、帝国軍は純粋バルバレスト人のみで構成されるべきであるという理念をもつ一派だ。
帝国の名前の通り、バルバレスト帝国は多数の民族をバルバレスト系臣民が支配する構図をとる国である。そのなかでも、純血派は過激な活動が多いことでも知られている。
『おっす。ジスト君。』
唐突に通信が入った。
声の主はルガーだ。
通信は個人回線が選択されており、ルガーとジストのみのやり取りであることがモニターに表示されていた。
「な、何ですか?」
『固くなんなよ?相手が純血派だからって、熱くもなるなよ?』
「……?!」
自分が考えていたことをそのまま言われたような気がしたジストは虚を突かれてしまう。ルガーがヴァリス大佐の部下であることは知っていたが、自分のことを聞いているのだろうかとジストは思った。
『えーっと、確か名前はクラッジス・バルトンだな。』
通信の向こう側で何かペラペラとめくる音がしてジストは喋る。
『また、いやな相手を相手にしたもんだ。』
ルガーは笑った。
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