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もう街は眠ってる…
ネオンの光と、いつもより多めの星達に照らされ、もうすぐ一番ホームには列車がやって来る頃…
君の幸せいっぱいの寝顔を、いつまでも目に焼き付けていたい自分が苦しくて…
きっと明日にはもっとお互い苦しくなるから、何も言わず手紙と精一杯の言葉を置いてきた。
夢の中で君は僕に会えてるのかな?…なぁんて、ゆっくりと包まれる列車の光と共に、今そんな事ばかり考えてる…。
重たい足をぎこちなく動かし、窓際の座席で一人、タバコをくわえながら空を見上げる僕。
窓からの見上げた夜空は、この街で見た一番の天の川が眩いほど瞬いていた…。
今この億千の光に願いを込めるならなんと願おうか…
そんな柄にもなく、どこかロマンティックな考えと、タバコの火を消して、あてもなく眺めるホーム…
人の気配すら感じさせないホームを横目に発車のベルはついに鳴り…
やがて、ゆっくりと静かに走り出す列車…
眠りにつこうと目を閉じ、思い返す旅の記憶。
この街で出会った風景には、いつも君の笑顔がいた…
記憶の限りかじかんだ手を重ね、怒らせて、笑わせて、泣かせて、また笑わせて…。
その度、君を誰より愛しく、そして強くギュッと抱きよせた。
そんな最高の旅の記憶を一つ思い出す度、溢れ出る涙。一つ…二つ…と、流れて涙を拭っていると、胸ポケットに入った携帯から君のメールの音が流れた。
メールの内容は、手紙に書き残した言葉と同じだった…
『大好きな君へ
ありがとう。』
何も言わず出ていく僕に、君は何も言わず…そして寝たフリまでして、僕を送り出してくれたんだね…
辛かっただろうに…
君に送った以上の『ありがとう。』を胸に抱き、車内いっぱいに響くすすり泣きを乗せ、聞こえる事のないもう一つのすすり泣きが聞こえる街をゆっくり出発していった。
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