7人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、彼女が味方であるという確信はない。
普通に考えれば戻れというなら敵だろう。
俺の逃げていた、何かの正体。
そんな敵を相手に自分が記憶喪失ですなんて言ったら利用されるに決まってる。
「ヴィオ!! お前、一人で出歩くな…よ…?」
一気に警戒態勢に入ると睨みつけるようにしてその女を見る。
どうやら敵で間違いないらしい。
「まだ…やりたいことが、終わってないんだ…!
俺はまだ美少女にナンパもしてないし、女子の風呂も覗いていない!!」
一瞬で静寂になる。
フードで全くその女の顔は見えないけど、心なしか物凄く冷めた目を兄さんに向けてると思う。
何故なら俺自体が今まさにそんな感じだから。
こほん、とさすがに恥ずかしかったのか一度咳払いをすると空色の瞳でフードの女を見据えた。
「とにかく…俺達は絶対に戻らない」
いつもより声のトーンを低くし、兄さんはフードの女を睨みつけたまま腰にたずさえた剣をとる。
緩やかにカーブを描く湾曲刀を抜き向けると再び緊迫した雰囲気に包まれる。
分からない。
なぜ兄さんはこんなにも頑なに戻りたがらないのか。
なぜ俺はこんなにも、戻りたくないのか。
俺はなにも分からず立ち尽くすことしか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!