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都の助けもあり片付けはあっという間に終わった。
私は水仕事で冷えた都の体を温めるべく、温かい紅茶を淹れ席についた。
「都の用事ってなに?」
都は淹れたての紅茶に角砂糖を2個、ミルクをたっぷり入れてスプーンでゆっくりかき回す。
紅茶はあっという間に色を変え、辺りには甘いミルクティーの香りが漂った。
「綾ってさ、夢って信じる?」
「夢?んー、いい事だったら信じる。嫌なことは忘れるし、怖い事は多分覚えてない」
「…なんだそれ」
「だってそういうもんなんだもん。でもなんで?」
都はゆっくりミルクティーを口に含むと、一息ついた。
「なんかさ、最近嫌なことばっか起こるんだよね。思わずこれって夢なんじゃないか、って思うくらい」
都は静かにミルクティーに視線を落としながら丁寧に話を続ける。
「今私がここに居るのも本当は夢でさ、綾とこうして一緒にいられる時間も本当は簡単に覚めてしまう幻なのかな、って」
「何言ってるの!これは夢じゃないよ!都、何か悩んでるなら話聞くよ。だから一人で抱え込まないで!」
私はカップを握る都の手をギュッと握りしめた。
その手は温かく、柔らかい。
「ありがとう、綾」
都はカップに残ったミルクティーを一気に飲み干すと、何か決意を決めたかのようにすっと立ち上がった。
「綾、私決めたよ」
「な、なにを?」
「やっぱりランチはチーズインハンバーグ!!」
「…」
「今朝起きたら胸焼けがひどくてさ、朝ごはん食べられなかったの。でもって、綾に会いに来たら焦げたガトーショコラでしょ?空きっ腹に爆弾。もう悪夢なわけさ。だからランチは好きなものを奢ってもらうから、チーズインハンバーグ!」
なんだったんだ、さっきまでのシビアな空気は。
この女の変わりよう…、私の焦げは悪夢ですと?
「ちょっと都ー!」
「ほらほら早く行かないとランチ混み合っちゃうよ~」
「待てー!」
都はきゃっきゃと笑いながら部屋を飛びたし、おちょくられた私はエプロンを掛けたまま彼女を追いかけた。
後になってみれば、これが全ての始まりだったのだろう。
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