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「……ごめんな」
謝ってほしくなんてない。
謝るくらいなら、一緒にいてほしかった。
せめて、帰るまで。駅で別れてもいいから、あの街へ、あたしと洋が育った街へ帰るまで、一緒にいてほしかった。
でも、言わなかった。違う。言えなかった。
きっと洋は、今、すごく困った顔をしている。
これ以上、洋を困らせるのも、嫌だった……。
「あのさ、美晴、ひとつ、いいか?」
洋は、さっきより明るい感じの、でもちょっと無理しているみたいな声で言った。
何、と、小さい声で返す。
「あの、その……さ。俺が、空を見たい、って行った理由……それ、ってさ……」
ざざざぁん、と、一際大きな波が堤防に打ち寄せる。
そのせいで、あまりよく聞き取れなかった。
え? と言って顔を上げたら、一瞬だけ、洋の照れくさそうに笑った顔が見えた。
洋の唇が、短く動いた。
遅れて、「じゃあな」と声が聞こえた。
その余韻を、打ち寄せた波が、掻き消した。
そして、波の音の、後には。
あたしと、空と海の境界線が、残った。
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