50人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、彼にとってはその最後の機会である今回も例外なく、『彼』は『奴』に脅されていた。
例に漏れず…………この日の二日前に、『彼』は『奴』に学校裏につれていかれて、
散々に殴られた挙げ句に、「絶対に俺に勝つな」と睨みをきかされた。
気弱な『彼』は従うしかない。
その時点で『彼』はジエンド。そもそも戦う事を剥奪されていた。
ーーー憧れのディープインパクトのように、先頭を駆け抜ける事をしてみたい。
だがそんな夢は、高校最後の舞台に至っても相変わらず叶えられそうにもない。
また、そんな状況を変えられそうにも無い。変える気力もない。
『彼』の胸に広がるは、いつもの絶望感であった。
が、今回は少し事情が違った。
そんなおりに『先生』が現れたのだ。
散々に暴行を受けた後、という余りに遅れたタイミングでその場に駆けつけた『彼』の担任である『先生』は、
しかし犯人を探そうとも、警察に連絡しようともしなかった。
彼女は一部始終を見ていたのだという。
「ここまでやられて悔しくないの」
おおかた『先生』は、彼に対してそのような言葉を投げかけた。
『彼』は正直なところ、「またか」と思った。
通常その手の言葉というのは、「やり返せるくらいに強くなれ」という意味の裏返しである。
その惨劇を見た、あるいは伝え聞いた大人や、『彼』から相談を持ちかけるわずかな友人達が
口を揃えていう言葉でもある。
「悔しければ見返してみせろ」
「これを乗り越えれば君は強くなれる」
…………それができるくらいなら、『彼』はとうにイジメなど受けていないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!