臆病者『カブラヤオー』とEscape

5/15
前へ
/15ページ
次へ
だが、彼にとってはその最後の機会である今回も例外なく、『彼』は『奴』に脅されていた。 例に漏れず…………この日の二日前に、『彼』は『奴』に学校裏につれていかれて、 散々に殴られた挙げ句に、「絶対に俺に勝つな」と睨みをきかされた。 気弱な『彼』は従うしかない。 その時点で『彼』はジエンド。そもそも戦う事を剥奪されていた。 ーーー憧れのディープインパクトのように、先頭を駆け抜ける事をしてみたい。 だがそんな夢は、高校最後の舞台に至っても相変わらず叶えられそうにもない。 また、そんな状況を変えられそうにも無い。変える気力もない。 『彼』の胸に広がるは、いつもの絶望感であった。 が、今回は少し事情が違った。 そんなおりに『先生』が現れたのだ。 散々に暴行を受けた後、という余りに遅れたタイミングでその場に駆けつけた『彼』の担任である『先生』は、 しかし犯人を探そうとも、警察に連絡しようともしなかった。 彼女は一部始終を見ていたのだという。 「ここまでやられて悔しくないの」 おおかた『先生』は、彼に対してそのような言葉を投げかけた。 『彼』は正直なところ、「またか」と思った。 通常その手の言葉というのは、「やり返せるくらいに強くなれ」という意味の裏返しである。 その惨劇を見た、あるいは伝え聞いた大人や、『彼』から相談を持ちかけるわずかな友人達が 口を揃えていう言葉でもある。 「悔しければ見返してみせろ」 「これを乗り越えれば君は強くなれる」 …………それができるくらいなら、『彼』はとうにイジメなど受けていないのだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加