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「悔しくない。」
そういう人生を歩むべき人間なのだ、と『彼』は投げやりな事を『先生』に言った。
呆れられるのは慣れているし、大人に何を言われたところで『奴』に突っ掛かっていく勇気など生まれようも無い。
つまり、もうほっといてくれと。
こうやって殴られ蹴られ、一位を譲って生きていくから黙っていてくれと。
「悔しくない。」
さあ笑え、というくらいな感じで『彼』は『先生』にそういった。
『彼』は多分、
その次、『先生』が自分に「意気地なし」だとか「根性なし」だとか言って、奮い立たせようとすると思ったのだろう。
現にこれまで、悩みを打ち明けた大人、あるいは状況を知った大人に『彼』はそう言われてきていたのだ。
ーーおおよそ今回もそれに近い事だろう。言いたければいえばいい。
彼はそう達観していた。
ーーが。
『先生』はそのあと思わぬ行動を取った。
「競馬好きでしょ。
一緒にレースでもみようか。」
微笑んで手をさし伸べた『先生』は、『彼』の予想外にそんなことを言って、『彼』をテレビのある多目的室に連れていった。
状況把握もできぬまま、その目的すらわからぬまま、いわれるがままにそれについて行った『彼』は、
そこで一頭の競走馬の写真を見せられた。
『彼』がそれを見て
それが往年の名馬、ダービー馬カブラヤオーだと気づくのに時間はかからなかった。
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