0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は今、森の中を歩いていた。
金髪少年ナインは「僕は君に構っているほど暇じゃない」とか言って、私とは違うほうに歩いていった。
「ていうか何よここ、ホントに魔物とか出そうね」
樹は大きい。なんだかとなりのト●ロで出てきそうな、それぐらいの大きさの樹。
「第一なによナインってば、私は一人で行きたくないって言ったのに。ていうか、あれよ。人は一人じゃ生きられないとか言って、レディを一人にするってどういうこと。熊が出たらどうするのよ」
そんな風に文句を言っていると、近くの茂(しげ)みが揺れた。
私はその茂みを見つめる。
熊じゃありませんように熊じゃありませんように熊じゃありませんように。
出てきたのは、熊ではなかった。
「ぎ、ぎぃやぁぁぁ!!」
熊よりも恐ろしい生き物、恐竜の一種、ラプトルであった。肉食恐竜である。
「きょ、恐竜!」
ラプトルは頭がいい恐竜である。
例えば、一匹が獲物を誘いだし、隠れていたもう一匹が後ろから獲物を捕らえるといったこともできる。
ラプトルはゆっくり私に近づいてきた。
私は銃を構える。もちろん使ったことなどないし、ナインも使い方を教えてくれなかった。
「き、来たらう、うう撃つわよ」
震えているのが私自身、わかる。声も震えている。
だがラプトルはそんなことを聞きもせず、というか人の言葉など通じるはずもないが、さらに私に近づいてくる。
私は引き金を引こうとした。だが、手が震えているせいか、引けない。
「こ、これは夢。そう夢なの。きょ、きょ恐竜なんているわけないじゃない。ぜ、絶滅したんだし」
私は目をつむった。
きっと目を開けたらそこは私の部屋に違いないわ。そうよ、エルフや恐竜がいるわけないもの。
ゆっくり目を開けると、そこにラプトルの牙が見えた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
思わず身を屈(かが)め、再び目をつむる。
ぐるるぅという鳴き声みたいなのが聞こえた。
「大丈夫でい?」
目を開けると、虎がいた。
「と、虎……」
「おうよ。おれぁここの森に住んでるボスってもんでい。人間のお嬢さん、大丈夫でい?」
虎が、口をきいている。
「もう、ホントに……ナインのバカ……、一人で行きたくなんか、なかった……」
そして、私は意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!