第1章 高校 (1)松葉杖バスケットボール

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私はまだ、日常で松葉杖が欠かせなかった。 不便で仕方がない。 世間では駅などがバリアフリーになってきているけれど、高校は当然のように階段だ、教室は2階だというのに。 「水野ー!予鈴鳴ってるぞ!急げ急げ」 「はーい」 担任の先生だ。 先生も急いでいるらしく、後ろから私を追い抜いて行く。 怪我をしているので朝はなるべく早く登校していたけれど、今日はたまたま寝坊してしまった。 とん、とん、とん。 私は階段を上り始めた。 杖と、左足と交互に一段ずつ。 足元を見て杖をついていると、肩からショルダーバッグがずり落ちてくる。 邪魔でしょうがない。 「リコちゃん」 高めのトーンに、かすかなハスキーボイス。 知らない声に呼ばれて振り向くと、見慣れない男子生徒が階段を上ってくるところだった。 あっさりした顔立ちで、短めの黒髪。 どことなく幼い印象が漂っている。 彼が私の目を見てニコッとしたので、思わず笑顔を返そうとした。 「お姫様抱っこしようか?」 はあ? 突拍子もない提案をしたその彼。 笑顔がかわいい男の子、のイメージは一瞬で吹き飛んで行った。 バカじゃないの?
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