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私はまだ、日常で松葉杖が欠かせなかった。
不便で仕方がない。
世間では駅などがバリアフリーになってきているけれど、高校は当然のように階段だ、教室は2階だというのに。
「水野ー!予鈴鳴ってるぞ!急げ急げ」
「はーい」
担任の先生だ。
先生も急いでいるらしく、後ろから私を追い抜いて行く。
怪我をしているので朝はなるべく早く登校していたけれど、今日はたまたま寝坊してしまった。
とん、とん、とん。
私は階段を上り始めた。
杖と、左足と交互に一段ずつ。
足元を見て杖をついていると、肩からショルダーバッグがずり落ちてくる。
邪魔でしょうがない。
「リコちゃん」
高めのトーンに、かすかなハスキーボイス。
知らない声に呼ばれて振り向くと、見慣れない男子生徒が階段を上ってくるところだった。
あっさりした顔立ちで、短めの黒髪。
どことなく幼い印象が漂っている。
彼が私の目を見てニコッとしたので、思わず笑顔を返そうとした。
「お姫様抱っこしようか?」
はあ?
突拍子もない提案をしたその彼。
笑顔がかわいい男の子、のイメージは一瞬で吹き飛んで行った。
バカじゃないの?
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