第1章 高校 (1)松葉杖バスケットボール

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知ってる子なら「何言ってんの?」とかつっこみようもあるけれど。 どのクラスの何くんかも知らないし。 ニコニコと悪びれない笑顔なので、なんだか答えに困る。 私が「結構です」とだけ言うと、彼は声を出して笑った。 「ハハハ、冗談だよ!はい、貸して」 その彼はさっさと私の松葉杖を一度受け取り、ショルダーバッグを私の首から抜いた。 持ってくれるつもりらしい。 「あ、ありがとう」 松葉杖を渡してもらう。 彼は私のバッグを持ちながら一緒にゆっくり階段を上り始めた。 とん、とん、とん。 杖をついて片足で上るのはかなり時間がかかるのだ。 その子は完全に私のスピードに合わせてくれている。 「チャイム鳴っちゃうよ?」 さっき予鈴が鳴っていたんだから。 待ってもらっているのが気になってそう言ったのに、彼は平気な顔だ。 「大丈夫だよ。鳴ったら教室の後ろからこっそり入れば」 むしろ、いたずらっぽく笑っている。 チャイム鳴っても、それで済むんだっけ? 私は普段、時間通り登校しているから、そこのところよくわからない。
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