第1章 高校 (1)松葉杖バスケットボール

4/6
前へ
/645ページ
次へ
「……」 これは彼の親切なんだろうけれど、なんだか照れくさくて話すこともないので、もくもくと階段を上る。 この男の子は誰なんだろう? 2階まで上がると、名前も知らないその彼はにっこりして、首からバッグをかけてくれた。 真正面からそっとかけられたので、キスするみたいな近さに思わずドキッとする。 「ありがと……」 戸惑いながら言うと、彼は嬉しそうに笑った。 「これ、あげる。使ったら楽だよ」 さっと、彼は勝手に私のショルダーバッグのポケットに何かを差し込んだ。 「え?何これ」 私は松葉杖で両手がふさがっていてすぐ確認できない。 ポケットを覗き込んでからもう一度彼を見上げると、もうその子は上って来た階段を戻り始めていた。 「あれっ?下に戻るの?」 「うん!またね、水野莉子ちゃん!」 彼は手を振って、さっと階段を降りて行ってしまった。 フルネーム!私のことを知ってたんだ。 1階に戻ったってことは1年生? 私のために、わざわざ2階まで一緒に来てくれたのかな。 知らない男の子にさりげなく優しくされ、少なからず悪い気はしない。 始業開始のチャイムを聞きながらギリギリで教室に入り、自分の席についた。 さっきの彼が入れたものを取り出してみる。 ショルダーバッグのポケットにはさまっているナイロン製のもの。 ……折りたたみできるリュックだ。 広げると、青い雄牛のイラストと「Blue Bull」と書いたロゴが小さく入っている。 Blue Bullって栄養ドリンクだったっけ? 私はじっとその絵を見つめた。
/645ページ

最初のコメントを投稿しよう!

218人が本棚に入れています
本棚に追加