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「……」
これは彼の親切なんだろうけれど、なんだか照れくさくて話すこともないので、もくもくと階段を上る。
この男の子は誰なんだろう?
2階まで上がると、名前も知らないその彼はにっこりして、首からバッグをかけてくれた。
真正面からそっとかけられたので、キスするみたいな近さに思わずドキッとする。
「ありがと……」
戸惑いながら言うと、彼は嬉しそうに笑った。
「これ、あげる。使ったら楽だよ」
さっと、彼は勝手に私のショルダーバッグのポケットに何かを差し込んだ。
「え?何これ」
私は松葉杖で両手がふさがっていてすぐ確認できない。
ポケットを覗き込んでからもう一度彼を見上げると、もうその子は上って来た階段を戻り始めていた。
「あれっ?下に戻るの?」
「うん!またね、水野莉子ちゃん!」
彼は手を振って、さっと階段を降りて行ってしまった。
フルネーム!私のことを知ってたんだ。
1階に戻ったってことは1年生?
私のために、わざわざ2階まで一緒に来てくれたのかな。
知らない男の子にさりげなく優しくされ、少なからず悪い気はしない。
始業開始のチャイムを聞きながらギリギリで教室に入り、自分の席についた。
さっきの彼が入れたものを取り出してみる。
ショルダーバッグのポケットにはさまっているナイロン製のもの。
……折りたたみできるリュックだ。
広げると、青い雄牛のイラストと「Blue Bull」と書いたロゴが小さく入っている。
Blue Bullって栄養ドリンクだったっけ?
私はじっとその絵を見つめた。
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