第4話

2/39
前へ
/39ページ
次へ
家母が話した“受け”というのは、文(ふみ)受けのことだった。 雪美館の娼家には上級女が八人いた。 彼女らは数多の上客を抱えていた為、客がかち合うということも珍しくなかった。 そこで、前もって客の迎える日を決めよう、と始めたのが文受けである。 遊廓は、営業時間が申の刻(凡そ十六時頃)からと国法で決められており、文はその時刻までに下男が届けにくることが多かった。 文と言えども、予約と称されるそれには、娼妓名と日にちと客名しか記されておらず、家母はそれを受けると、その場で予約帳をあらため、下男に可か否と書いた紙を持たせていた。 「お前に出来るんかいね」 家母は始めはそう言ったが、都季は直ぐに上級女の名を覚え、その字も覚えた。 予約文には稀に言伝(ことづて)が書かれていることもあったが、都季の知らない字も上級女の一人が暇潰しに教えていた為、都季はぐんぐん字を覚えていった。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

177人が本棚に入れています
本棚に追加