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episode 51 後追い
宵闇――。
「ここでいい」
黒いマントコートに身を隠し、僕は路地裏にリムジンを止めさせた。
「和樹坊ちゃま、約束ですよ?午前0時までにはこちらにお戻りいただけますね?」
運転席で冷や汗をかいているのは、我が家にやってきたばかりの執事見習いだ。
「変だな。僕、そんな約束したっけ?」
キャッシュを取り出しながら、僕はしらっと笑ってやる。
「お願しますよ!ばれたら俺、中川さんに殺されちゃいます――!」
取り乱す執事見習いの手に、僕はチップには多すぎる額の札を握らせて言った。
「中川はそんなことしないよ」
純朴そうな青年は手を引っ込めることも忘れ、次の言葉を待っている。
「君をクビにして、この業界じゃ2度と働けないようブラックリストに載せるぐらいさ」
暗闇でもみるみる彼の顔色は青ざめた。
「まあ、安心しなって」
僕は後部座席から降り立つ間際、かわいそうな執事見習いに言った。
「主人はこの僕だ」
黒いマントが夜風に翻る。
「分かったらそこで、おとなしく待っておいで――」
僕は闇間に用がある。
静まり返る夜中のオフィス街を抜けて――。
「ここか……」
地下へと続くひどく暗い階段を下った。
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