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童話を語るかのように、フィアは目を閉じる。
「――私は、薪を拾いに森に入っていました。元々、村には微弱ながら発電の技術があったのです。それが、落雷で駄目になって……暖をとるために、古風ながら薪ストーブを使おうとしまして。そうしたら――」
「……僕を、見つけたと」
「……はい。アールが何かに取り憑かれたみたいにいきなり走り出して、追い掛けたのです。追いついてみると、貴方様が……天使様が、倒れてました」
僕はあの森で、何かをしようとしていたのか。それは分からない。分からないのだ、僕は何をしようとしていたのか。
「雪の中に、半分ほど埋もれて……アールが教えてくれなければ、見つけることは出来なかったと思います。凍傷と、それと……火傷。酷い傷でした」
何が言いたいのか。やめてくれ、そんな目で僕を見ないでくれ……。
「……天使様、」
「やめてくれ! 僕はもうっ……天使なんかじゃ……っ!」
パンッ――。乾いた音が闇に響く。村で響く村人たちの歓喜に満ちた声は何故か、その一瞬だけ遠くに聴こえた気がした。一体今、何を……?
「……天使様は、天使様です。落雷があったのはつい、昨日の夜です。それは、丁度私達の村の上空で不自然に折れ曲がりました。まるで村を避けるかのように」
「……」
「貴方様……なんですよね? 私達の村を救ってくださったのは……」
何も、言えなかった。そもそも、僕は村を救ってなんかいないんだ。全ては……僕が悪いのだから。
「……僕は、天界でも位の高い……代天使長だったんだ」
気がつくと、口が勝手に動いていた。あたかも、全てを吐き出そうとするかのように、これ以上はため込めないと悲鳴をあげるかのように。
「神は、僕を次の神にしようとしていた。それだけ、僕は働いていたから。でも、その理由は他の天使とも……神とも、違ったんだ」
天使が働くということ、それは基本的に人の為にではない。天啓を伝えて、信仰を集める。それは天界の維持の為なのだ。普通は。
「僕は、人が好きだった。だから、人の為に働いたんだ。だけど……それは異端だった。既に安定している天界、それでもまだ信仰を集める僕……神は訝しく思ったんだ。そして、僕に聞いた」
――お前は、何故働くのだ。と。
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