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フィアはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「貴方様が居ただけで……私達は救われました。ありがとう、天使様……」
フィアは泣いていた。何が悲しいのか、僕には分からない。でも、
「あれ、おかしいな……なんで、なんで、泣いてるの私……天使、様?」
「……僕は……僕はっ……うぅっ……」
頬を静かに流れる雫。降る雪が溶けたのだろうか、それにしては温かい。これは……?
「……ふふ、天使様も涙を流すんですね。なんだか、嬉しいです」
「なみ、だ……? これが……涙……?」
溢れる。止められない。整理できない気持ちの奔流が流れ出していく様に、次々と溢れ出す。
「……天使様、私と……私達と一緒に、暮らしませんか?」
「君、と……一緒に?」
フィアは顔を赤らめながら言った。僕が、人と一緒に暮らす。そんなこと、考えもしなかった。
「はい。天使様の傷が癒えるまで……癒えても、です。村の皆も、喜ぶと思います……わ、私も」
良いのか、僕は。人と……フィアと暮らしても、良いのか? 僕は人でも無ければもう、天使でもないのに。
「……天使様は、嫌です、か?」
ああ、そんな目をしないでくれ。僕をこれ以上揺さぶらないでくれ……。
葛藤。渦巻く思考。何が良いのか悪いのか、もう分からない。
「……天使様は、どうなされたいのですか?」
「……僕が、どうしたいか……?」
「はい。天使様は、どうしたいのか……」
僕が何をしたいか、か。考えもしなかった。天使として生きて、そのまま消えていく。そう思っていた。
……僕は、人が好きだ。一人じゃひ弱でも、皆で生きていく。そんな姿が好きだ。
――僕も、そこに入っても良いのだろうか。その、輪の中に……。
「僕は――」
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