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――暖かい。変な夢を見ていた気がする。それに、重い。
「――い……し様が…………れたぞー!」
何かが聴こえる。でも、眠い。まだ、寝ていたい。このまま微睡みの底へ――。
「……っかはっ……!?」
そんな願いは、突如腹部を襲った痛みにあっけなく一蹴された。何かが、僕の上で跳ねている……!?
「な、なんだっ……?」
「こ、こらっ、天使様になんてことを……ほら、降りて、アールっ……」
白くて角が2本ある獣だった。細く鋭い眼、顎の下に伸びた髭のような毛が特徴的だ。″アール″と呼ばれたそれはクルルッ、と嘶くと僕の上から飛び降りた。
「すみません、天使様……うちのアール……ヤギがとんでもない御無礼を」
どうやら、ヤギという生き物らしい。枕元で、少女が頭を下げた。
「いや、そんなことは……頭を上げて下さい」
「でも……」
「いいから、上げて下さい。僕は無礼だなんて思ってません」
僕の腕や胸に巻きつけられた包帯。寝かされていたベッドの横に無造作に置かれた塗薬やガーゼ。状況は飲み込めないが、どうやら介抱されていたようだった。ならば、頭を下げられる謂れはない。
「介抱までして頂いて……僕こそ、お礼が遅れてしまった無礼をお許しください」
重い体をなんとか起こし、頭を下げる。途端に慌て出す少女。
「はわわわわやめてくださいませ! 天使様が頭を下げるなど……」
「下げさせてください。僕にはこれくらいしか出来ません」
少女は暫くその場で頭を上げさせようとしていたが、やがて諦めた。僕はただ、頭を垂れていた。
「……天使様、こんなものしかないですがお飲みください。体が温まります」
少女はいつの間にか、手に白いマグカップを持っていた。中には湯気を発する、透明で赤色の液体。
「紅茶です。口に合うかどうか……」
「ありがとう。頂きます」
遠慮がちに差し出されたそれを、僕は素直に受け取って口に含んだ。ほのかに広がる茶葉の香り。マグカップから伝わるほのかな温もりに思わず頬が緩んだ。
「……」
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