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少女が僕の顔をじーっと、上体を傾け見つめていた。今のを見られていたなら、少し恥ずかしい。
「……どうかした?」
「……はぅっ!? い、いえなんでも……」
声をかけると、手をはわわと振って慌てる少女。考え事でもしてたのかな。だったら、悪いことをしちゃったかな。
「……そのぅ……天使様は、どうしてこんなところに……?」
たっぷりの時間の後、少女は口を開いた。
「……僕は、天使なんかじゃないよ」
「でも、背中のそれは……」
少女は僕の背中を見て、消え入るように言った。それは包帯が巻かれてはいるが、どう見ても――翼だった。
全長は大人一人分はあろうか。鳥の羽とも動物の毛とも似つかぬ羽が幾層にも重なって半月状を成している。六翼あるそれのうち、上二翼は根元から無惨にひしゃげてしまっている。中の二翼は形を保ってはいるものの黒く、焼きこげた様になっていた。無事なのは下二翼だけだ。それでも、羽が何本も抜け落ちてしまっていた。背中から生えた翼は、天使と呼ばれる存在達の象徴だった。
「もう、天使なんかじゃないよ……」
少女は困ったように手をもじもじとしていたが、やがて真っ直ぐ、こちらを見据えると、
「……私は……フィアと言います」
「……フィア?」
「……っ……はい。フィア、私の、名前です」
人から名前を名乗られたのは初めてだった。何故だか、心の中に温かいものが広がっていく。まるで、昇る朝日のように。
「そのう……貴方様の名前は……」
少女――フィアは、翼翼として僕に尋ねた。名前、か……。
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