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同化――out of angel――
飲めや歌えやの大騒ぎ。村の至る所で活気に満ちた声が響き、最早陽が暮れて数刻が経つというのにまだ、眠らない。
そんな村の端、深い森と隣接した土地は普段からは想像できない程の熱で満ちていた。
「ははは、まさか天使様とお目見え出来るとはなぁ! それも今日!」
「いやはや、全く長生きはしてみるもんだ……ありがたやありがたや」
「アンタまだ二十歳になったばかりだろぅ!」
木製の器……丁度、酒樽をそのまま小さくして取っ手を付けたようなものを掲げて騒ぐ男二人。一人は上半身剥き出しで筋骨隆々とした屈強そうな体をしており、もう一人は比べてしまうと細く見える体つきだが、その皮膚の下にはしなやかな筋肉が眠っていることは、背に携えた多くの工具からも明らかだ。二人は、村の大工ペアらしい。
「いえ、だから僕はもう天使なんかじゃ――」
「謙遜しなさんな! その六翼! 天使の中でも最も位の高い代天使さまの証だろう!」
「い、痛いですって……」
筋骨隆々とした男が僕の背中をバンバンと叩く。
駄目だ、皆浮かれていて僕の話など耳に届かない。陽気が陽気を呼び、収まることを知らない。陽気の連鎖状態だ。どうしてこんなことに……。
「……天使様! こちらへ!」
僕が人々の渦の中抜け出せないでいると、その隙間から覚えのある声。
「――フィア!」
僕を介抱してくれた少女、フィアが家々の間から僕を呼ぶ。躊躇わずに、転がるようにしてそこに滑り込んだ。
「……ふぅ、ありがとう。助かったよ」
そこは人々からは丁度、死角になる場所だった。酒樽や雑多に放置された建築資材、それらにかけられた雨よけの布の影となる場所だ。
「いえいえっ。……村の皆がご迷惑を」
「そんなことないよ。人々の笑顔は僕にとっての活力だから」
確かに、キャッチボールの如く村人達の元を次々と回され、眼は回った。だが、僕が訪れた所では皆が皆、笑顔で歓迎。別れには涙ぐむ人まで居て、嬉しくない訳が無い。
「……やっぱり、天使様は天使様なんですね」
フィアが静かに微笑む。
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