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「うん?」
「……いいえっ、なんでもありません」
「ええ……」
どういう意味なのだろうか。中途半端に言われては気になってしまう。
「……でも、どうして天使様は否定なさるのですか?」
フィアは一転、微笑を辞めると小首を傾げて問うた。
「天使様は、どうして天使様であることを……そんなにも、嫌がるのですか?」
「……」
答えることが出来なかった。無垢なフィアの瞳。この娘は、何も知らないんだ。天界は既に……。
「……どうして、村の皆がこんなに、喜んでいるのか」
「……?」
「それは……今日が、イエスの降誕祭だからなのです」
そうか、そういうことか。これで合点がいった。
――イエス・キリスト。その名は誰しもがしるところだろう。かの三大宗教の一つ、キリスト教は彼の考えに基づくものだ。慈愛と隣人愛とでも言おうか。右の頬をぶたれれば左の頬を差し出し、人を愛す。さすればやがて救済されるだろう。今日はそのイエスの降誕祭――つまりは、クリスマスだ。
「先日、天を割り地を轟かせる落雷がありました。それによって起きた森林の火事……それは、私達に大きな被害を与えました」
落雷。災害の最もたる象徴の一つだろう。大気中で発生した静電気が――等、様々な説が人間たちの間では囁かれているが、それはミスリードに過ぎない。古来、落雷は人間達……いや、生き物全てに恐れられてきた。轟音と共に突如召雷され、木々を燃やし人を打つ。人々はそれを″神の怒り″とした。怒りを収める為に供物を捧げ、祭を行った。宗教の原型だ。それは、あながち間違いではないのである。
自然災害などと言われているが、それは違う。そもそも、雲が発生するのは不規則に場所を変える天界を人々の目から隠す為のものでそれ以外の意味は無いのだ。雷とは、正に神の御技というわけなのである。
「畑は倒木によって潰れ、そうでなくても作物は焼かれてしまって……私達は絶望に暮れていました。そんな時です、私が貴方様を見つけたのは」
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