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朝露に濡れて湿った芝の上をみずみずしい音をたてながら歩いて、丘のふちに立った。
手に握る黄色い花で作られた花束を崖の下に落とす。花びらがいくつか散って、そのままどんどん小さくなっていく。
花束が波にさらわれて見えなくなると、少女は芝の上にパタリと寝転がる。葉の青くさい香りが鼻をつんとついた。
少女がひとりぼっちになったのは、少し前に“彼”が崖の下へと消えてしまったからだ。
彼は花が大好きで、とりわけこの丘に咲く黄色い花が大好きだった。
少女は花と彼が大好きで、とりわけ彼の編んだ花輪が大好きだった。
二人はいつも一緒にいて、いつも幸せだった。でも、彼はいなくなってしまった。彼をさらった崖の下は、今日も涼しい音をたてている。
「……ふう」
小さくため息をついて、右手のそばに咲いていた花を摘み取った。太陽にかかげてくるくる回していると、花弁の中に残っていた雫が落ちて少女の頬をつたう。
冷たい水滴がゆっくりとすべっていくのを感じていた。
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