1381人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、猫相手にそんな険しい顔しないでくれる?」
尚も突っ立ったままの私はハッとする。
一瞬、この光景が私の不安を投影しているかのように思えて、ボーッとしてしまった。
「ほら、イトちゃんは俺の膝に乗せたから。
あ、ネコが俺の上に乗ってもいいけど」
「いい」
「早いね、切り返し」
……うん、大丈夫だ。いつもどおり。
ウソツキさんのからかい半分の笑顔を見て、自分に言い聞かせる。
ゆっくりクッションに腰を下ろし、スカートを下から押さえて体育座りをする。
最近車の運転席と助手席で話をすることが多かったから、この肩が触れる距離は若干緊張。
テーブルに置かれた、コップ二つにいつものチョコを見ながら、なかなか真横のウソツキさんを直視できないでいる。
「何ソワソワしてんの?アナタ」
「し、してないし」
横にいるウソツキさんが、ぐりんって顔を覗き込む。
「口、テカテカしてる。
グロスか何か塗ってきた?」
「た、たまには、いいかな、って思って」
背伸びをしているのは、少しでもウソツキさんに見合うような大人に見られたいから。
昌さんに対抗意識を持っているわけではないと、自分で自分に言い聞かせる。
「俺ね、キライ、それ。
キスの時ベタベタするから」
肩を抱かれ、おでことおでこをコツリと当てて、不敵に笑うウソツキさん。
イトちゃんは傾いたウソツキさんの膝の上が窮屈になったのか、ふいっと降りてテーブルの下で毛繕いを始めた。
最初のコメントを投稿しよう!