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「晃樹」
長椅子の横に立ったまま、数歩進んだ俺を呼び止める遼平。
「しばらく、落ち着くまで連絡も取らないでやって欲しい。
多分、結構なショックを受けてると思うから、美亜」
「……」
それが正解だって、分かっている。
分かっていながら、俺は振り返りも返事すらもせずに、再度足を進め出した。
閑散とした受付前を通り、外へ出ると、辺りは既に薄暗かった。
夏の気配がする生ぬるい風を受けながら、駐車場まで歩き、車に乗り込む。
後部座席には、体に触れないよう、気を失ったネコにぐるぐる巻きにしていた毛布。
救急車より早いからと、自分の車で病院まで運んだ。
視界に入ったそれから目を逸らし、エンジンをかけ、ライトを点け、車を発進させる。
悲しさか、空しさか、やるせなさか。
形容し難い気持ちが、俺の胸の奥から、深い、深い息を吐かせた。
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