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パン、パン、と柏手を打ち、昨年の感謝と今年一年の願い事を頭の中で唱える。
薄く目を開けると、手袋をしていない右手の指の先が全部赤くなっているのが見えた。
「何お願いしたの?ネコ」
隣で既に顔を上げているウソツキさんが、笑いながら私を見下ろす。
「このまま幸せが続きますように」
私は照れながらも、ウソツキさんを見上げて正直に答えた。
「ハハ。
現状維持?
欲が無いね」
吹き出したウソツキさんの息が白く宙を舞ったかと思うと、すぐに消えた。
「ウソツキさんは?」
「いいことありますように」
「うわ、そっちこそ超漠然としてるし」
「いいの。
ちょっとでもいいことがあったら神様が願いを聞いてくれたって満足できるでしょ」
「そんなもの?」
「そんなもん」
そう言って笑ったウソツキさんは、私の右手を引いて人込みを逆流し出した。
「ちょっと離したらすぐ冷たくなるね、ネコの手は」
ガヤガヤとした参拝客達の声に紛れて、ウソツキさんが振り向きながら言う。
大晦日をまたいだ深夜の初詣だというのに、手袋を忘れてきたため、ウソツキさんに片方借りて、互いの素手の方の手を繋いで歩く。
正直言ってこんな男女入り混じる人込みは今までずっと避けてきたから、一日の初詣なんて記憶にある限り初めて。
やはりウソツキさん以外の男性への多少の恐怖心は残っていて、マフラーに帽子にマスクにと、手袋以外は完全装備を決めてきた。
「ウソツキさん、早いよ。
ちょっと待ってよ」
「ネコが遅いの」
ぐいぐい引っ張られてようやく人込みから脱出した。
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