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下手くそなバンドマン。ありふれた夢を熱っぽく語る野暮ったさ。
でも彼は真っ直ぐなんだ、と思えた。
これをきっかけに、ふたりは付き合い始め、やがて彼女のアパートで同棲を始めた。
その交際は大学を卒業してからも続いた。
頼子が就職したあとも、彼は相変わらずフリーターのバンドマン。
絶対ビッグになるという言葉を信条とするかのように、彼はずっと真っ直ぐだった。
頼子はそれでも幸せだった。
生活を支えたのは彼女だったが、彼は雨が降るとまるで忠犬のように駅で帰りを待ってくれていた。
たった一本の傘を持って。
しかし月日が経つごとに、ビジュアル系バンドブームは過ぎ去り、30歳を目前にした頃には、頼子も結婚を考え始めた。
敏之も自分がビッグになれない事を、もう分かっていたような気がする。
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